高校生時代に、一枚の絵を見て衝撃を受けた。
絵を見たとたん、くらくらと眩暈のような感覚がはしり、どきっとして、心臓の鼓動がはげしくなった。
その絵は、岸田劉生の描いた「切通しの写生」である。
美術の教科書で見て、知っていたはずなのに、なにか違う風景。
なんだ、なぜなんだ。
写生であって、写生でない。
崖に囲まれた道が盛り上がり、そそり立って、向こうの青空につきっささっている。
その体験後、何度かこの絵を見たが、この異様な感覚の理由がよくわからなかった。
日経新聞朝刊連載中の「ぞっとする絵・十選」で、この絵について脳科学者茂木健一郎氏はこういう。
「一枚の絵との出会いが、新大陸の発見にも相当する経験の覚醒をもたらす。」
「この絵のぞっとするような迫力は、画家の目の産物である。」
「劉生の内なる衝動が生み出した不気味な魅力に瞠目させられる。」
この解説が、私の遠い過去の体験を想い起こさせてくれた。
絵の素晴らしさは、この一瞬の出会い。
美術の本でいくら見ても、本物を見なければ、価値はわからない。
日経新聞朝刊文化欄には、「ぞっとする絵・十選」のほか、作曲家デビューしたばかりの遠藤実「私の履歴書」、いよいよ大戦に向かうテムジン「世界を創った男・チンギス・ハン」があり、いずれも面白く、毎日この文化欄を最初に読んでしまうこの頃である。