映画は時代を映す鏡 

<ブログ18年目です>

ビリー・ワイルダー監督第6作「異国の出来事」

異国の出来事」(原題「A Foreign Affair」1948年)は、敗戦国の日本では未公開。
私はレンタルビデオ鑑賞済で、今回Amazonプライムビデオで2回目の鑑賞。

連合軍占領下のベルリンを舞台にしたラブコメ
冒頭飛行機の中から見える悲惨な街のベルリン。
監督自身が終戦後に見た衝撃的な様子そのままに,”ネズミがチーズをかじった跡のよう”というセリフで伝えている。

アメリカ視察団中のお堅い女性議員をジーン・アーサーが演じる。
彼女は戦前の人気スター。戦後は「シェーン」が有名ですね。
ベルリンに駐留している中尉(ジョン・ランド)、恋仲のクラブ歌手(マレーネ・ディートリヒ)との三角関係を描く。

この3人の中で、やはりディートリッヒの存在感が光る。
監督は後に「情婦」に起用して、圧倒的な存在感で悪女を演じさせている。

ここでもチャームポイントの脚線美で魅了。

キャビネット開閉を繰り返してのキスシーン、ラストでは椅子を使って男女逆転キスシーン。
小道具、ラストシーン作り、やはり上手い。

 

ビリー・ワイルダー監督第5作「皇帝円舞曲」

ユダヤ人だったビリー・ワイルダーは、大戦終了直後にベルリンを訪れ、家族がアウシュヴィッツで虐殺されたことを確信したという。

ワイルダー監督戦後最初の作品が、深刻な内容ではなく明るく楽しい作品を選んだ気持ちもわかる気がする。
日本でも木下恵介監督が戦争が終わったら明るく楽しい青春映画を撮りたいと切望していて1946年「わが恋せし乙女」を作ったように。

皇帝円舞曲」(1948年)は、20世紀初めのオーストリアが舞台のミュージカル作品。
主演は、「ホワイト・クリスマス」などの数々のヒット曲を世に出しミュージカル映画にも多数出演し人気のビング・クロスビー
やはり彼の歌声はこの映画でも聴きごたえ十分。

共演は、1941年にヒッチコック監督「断崖」でアカデミー主演女優賞を受賞していたジョーン・フォンテイン
彼女の美しさはワイルダー監督初のカラー映画で引き立つ。

他にも犬の演技が見どころ。
この映画ポスター下部の写真を見れば、連想できますね。

後に「ミュージカルを作る才能がない」と語ったとおりワイルダーにとって唯一のミュージカル映画となった。

 

ビリー・ワイルダー監督第4作「失われた週末」

「失われた週末」(1945年)は、ハリウッドで初めてアルコール依存症を真正面から捕らえた問題作。
終始依存症の恐怖をリアルに描く。
今観ると、さほどの恐怖感はないのだが、公開当時は相当ショッキングな内容だったのだろう。

ニューヨークのビル風景からアパートの窓にカメラが寄ると、ウイスキーの瓶が紐で吊り下げられていて、その瓶をちらりと見る主人公レイ・ミランドの姿。
ここまでワンカットで見せるファーストシーンで、もう唸ってしまう。
ちょうど後のヒッチコック監督「サイコ」のファーストシーンと同様の緊迫した導入部だ。

監督第1作「少佐と少女」で起用したレイ・ミランドを再び主役にして、名演技を引き出しアカデミー主演男優賞を受賞。
この作品は興行的にもヒットし、ワイルダーは監督4作目にしてアカデミー賞作品賞、監督賞、脚色賞を受賞。
名実ともにその地位を確立する。

 

ビリー・ワイルダー監督第3作「深夜の告白」

「深夜の告白」(1944)は、映画の新たなスタイル=フィルム・ノワールの古典である。

原題の”DoubleIndemnity”は「倍額保障」という保険用語。
倍額となる保険金を目当てに殺人を犯す男女の物語。

映画は負傷状態で深夜オフィスに入ってきた保険会社の敏腕外交員ネフ(フレッド・マクマレイ)の告白で始まる。
邦題を「深夜の告白」としたのも納得。
主人公のナレーションで始まる展開は、死体が語る「サンセット大通り」でも有効に使用されていた。

物語は、ファム・ファタールである保険契約者の妻(バーバラ・スタンウィック)との不倫関係、保険会社でネフの同僚バートン・キーズ(エドワード・G・ロビンソン)との友情を核に展開する。
殺人をからんでファム・ファタールと男の友情・・
まさにフィルム・ノワールの典型である。

ネフとバートン二人の友情は、マッチの小道具を使ったラストシーンで昇華し心地よい余韻を残す。

今観ても色あせないビリー・ワイルダー監督作傑作の1本。

 

ビリー・ワイルダー監督第2作「熱砂の秘密」

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ハリウッドでの監督第1作「少佐と少女」でビリー・ワイルダー監督が選んだテーマはコメディー。
次の監督第2作「熱砂の秘密」(1943)でのテーマは、作風を変えてスパイ・サスペンスドラマ。
この2作によってワイルダー監督の異なる二つの個性が露わとなる。
『コメディー作家としてのワイルダーと、フィルムノワール作家としてのワイルダー』(注)である。

英国の敗残兵が前夜死んだドイツ・スパイの給仕になりすましてロンメル将軍の機密を探る・・

第1作同様に変装人物が主人公なのだが、おかしみではなく身代わりを見破られぬよう行動するサスペンス味である。
また、スパイとして相応の応答ぶりが求められるが、それが見事にセリフに生かされて、さすが脚本家出身監督の力量発揮である。
そしてまた、デカンタに付けられた認識票のアップ場面のように、小道具扱いのうまさをみせている。後の「情婦」では、いくつかの小道具で法廷場面の緊張感を持続させる効果を発揮していた。、

この第2作でロンメル将軍を演じたのは、エリッヒ・フォン・シュトロハイム
『フィルムノワールの集大成』(注)である傑作「サンセット大通り」で再び監督に起用され快演をみせている。

次の第3作「深夜の告白」からもフィルムノワール作家時代は続き、1954年の「麗しのサブリナ」でコメディー作家時代は再開して最終作まで持続されることとなる。

Amazonプライムビデオでは、監督の第1作からの初期作品が公開されている。
「少佐と少女」(1942)「熱砂の秘密」(1943)「深夜の告白」(1944)
「失われた週末」(1945)「異国の出来事」(1948)「サンセット大通り」(1950)「地獄の英雄」(1951)・・
これを機会に監督のフィルムノワール作家時代を堪能してはいかが。

(注)新井達夫の名著「フィルムノワールの時代」から

 

ビリー・ワイルダー監督第1作「少佐と少女」

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ヒッチコックとともに大好きな映画監督ビリー・ワイルダー

ハリウッドでの監督作全25本のうち、これまで観ていない作品は監督第1作の「少佐と少女」(1942年 日本未公開)の1本だけだった。
が、なんとAmazonプライムビデオで観ることができた。感激!

監督第1作では失敗しないよう選んだと思われるテーマがコメディー。
主役はレイ・ミランドジンジャー・ロジャース
ジンジャーは、フレッド・アステアとコンビを組んだミュージカル映画で知られていた当時の大女優。

そのジンジャーは、都会で失職し12歳の子供に変装して、半額の切符で故郷に帰ることに・・
この変装人物の周りで起きるおかしみは、後の「お熱いのがお好き」(1959年)でのジャック・レモンとモンローの客室場面で再び生かされることとなる。 

レイ・ミランドは、監督第4作「失われた週末」(1945年)で、再び起用されてアカデミー主演男優賞を受賞。
併せワイルダーは作品賞、監督賞、脚色賞の3冠に輝いた。
       
ラストの列車見送りシーンでは、後の「昼下がりの情事」(1957年)でヘップバーンとゲイリー・クーパーの感動的場面を思い出した。

ワイルダーの魅力がたっぷりつまった監督第1作だ。
映画原題(メジャーとマイナー)も、おしゃれ。
ファンはお見逃しなく。

 

アカデミー賞授賞式を観る

昨日発表されたアカデミー賞授賞式の生中継をWOWOWで観た。
2年ぶりにドルビー・シアターでの授賞式開催で華やかに進行、
3人の女性による司会も軽妙で祭典を盛り上げていた。

濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」が、
作品賞、監督賞、国際長編映画賞、脚色賞にノミネートされたが、
国際長編映画賞を受賞。
監督の英語によるスピーチも堂々たるものだった。

作品賞は、ろう者家族を描いたシアン・ヘダー監督の
「コーダ あいのうた」。
会場で作品賞が読み上げられると、皆が手話での拍手で迎えたのには驚いた。
この作品で助演男優賞を受賞したトロイ・コッツァーの手話でのスピーチも感動的だった。
アカデミー賞の歴史に新たな一ページが加わった。

残念だったのは、ウイル・スミス。
ドキュメンタリー部門のプレゼンテイターであるクリス・ロックお得意のジョークに対して怒ったウイル・スミスが、突然舞台に上がってクリス・ロックの顔面に平手打ちをするというハプニング。
いかなる理由であれ祭典中の暴行行為は許されないだろう。
ドキュメンタリー部門受賞作がハーレムで開催された黒人ロックフェスティバルを扱った作品だけに、水をさされてしまった。
その後、主演男優賞を受賞した涙のスピーチも半減した感じだ。

主要6部門、私の予想が当たったのは半分の3部門だったが、毎年恒例のブログ予想も楽しみのひとつ。
さて来年は・・