ハリウッドでの監督第1作「少佐と少女」でビリー・ワイルダー監督が選んだテーマはコメディー。
次の監督第2作「熱砂の秘密」(1943)でのテーマは、作風を変えてスパイ・サスペンスドラマ。
この2作によってワイルダー監督の異なる二つの個性が露わとなる。
『コメディー作家としてのワイルダーと、フィルムノワール作家としてのワイルダー』(注)である。
英国の敗残兵が前夜死んだドイツ・スパイの給仕になりすましてロンメル将軍の機密を探る・・
第1作同様に変装人物が主人公なのだが、おかしみではなく身代わりを見破られぬよう行動するサスペンス味である。
また、スパイとして相応の応答ぶりが求められるが、それが見事にセリフに生かされて、さすが脚本家出身監督の力量発揮である。
そしてまた、デカンタに付けられた認識票のアップ場面のように、小道具扱いのうまさをみせている。後の「情婦」では、いくつかの小道具で法廷場面の緊張感を持続させる効果を発揮していた。、
この第2作でロンメル将軍を演じたのは、エリッヒ・フォン・シュトロハイム。
『フィルムノワールの集大成』(注)である傑作「サンセット大通り」で再び監督に起用され快演をみせている。
次の第3作「深夜の告白」からもフィルムノワール作家時代は続き、1954年の「麗しのサブリナ」でコメディー作家時代は再開して最終作まで持続されることとなる。
Amazonプライムビデオでは、監督の第1作からの初期作品が公開されている。
「少佐と少女」(1942)「熱砂の秘密」(1943)「深夜の告白」(1944)
「失われた週末」(1945)「異国の出来事」(1948)「サンセット大通り」(1950)「地獄の英雄」(1951)・・
これを機会に監督のフィルムノワール作家時代を堪能してはいかが。
(注)新井達夫の名著「フィルムノワールの時代」から