映画は時代を映す鏡 

<ブログ18年目です>

「イーダ」

先月、瀬戸内海に浮かぶ小さな島「直島」に旅し、現代アートを浴びるように鑑賞してきた。
多くの発見があり、杉本博司のアート作品「松林図」に、モノクロ写真の不思議な魅力に圧倒されたのもそのひとつ。

この映画も全編モノクロで、その画面は落ちついた静謐な構図で、余白の美ともいうべく、すべてのシーンがアート作品のように美しい。その一例が下の写真。
1シーンをも、おろそかにできない過去の世界を表現する映像の力。

1962年のポーランド
戦争孤児として修道院で育ったアンナと、戦争の犠牲者で自ら”アバズレ”と称する叔母という対をなす二人が過去をひもとく旅にでる。
アンナは自分がユダヤ人であり、本名はイーダであると告げられる。

イーダがカメラ正面に顔を向けて、頭巾を取って髪をおろす官能的なシーンは、ベルイマン監督を想起させる名場面で、息を呑んだ。

固定されていたカメラは、ラストに到って手持ちカメラに替わる。
過去に決別し、揺れ動き前進するアンナの顔には固い決意が秘められていた。

エンドクレジット場面になると、スタンダードサイズのスクリーンがビスタサイズに替わる。ユダヤ人虐殺当時の映画サイズから、現代の映像方式サイズへと。
過去に起きたことを見終わって、現代のあなたたち観客に向けて問いかけるように。