歌舞伎では、通しで上演されることが少なく、四段目の
「寺子屋」(松王丸親子の別離)が、単独で繰り返し上演されている。
みどころは、クライマックス部分である「切り場」の、
「桜丸切腹の段」。この「切り場」を語る太夫(出演者の頭に”切”とチラシに書いてある)は、人間国宝の竹本住大夫。
運命に逆らえぬ不条理な世界に父親の嘆きが、圧倒的に胸に迫ってくる。切腹する桜丸に泣きすがる女房に、父親が、
”そなたも泣きやんな、ヤア”
”アア、アイ”
”泣くない”
”アア、アイ”
・・・
と連綿と繰り返すところなど、まさに住大夫の独壇場。江戸時代の観客も、道真という貴族の”親子の別離”より、庶民の”親子の別離”に、共感を得たのだろう。
これは、「仮名手本忠臣蔵」が、勘平という庶民の切腹とおかるの悲しみ、別離を描いていることで支持を得たのと、同様だ。三味線の錦糸、人形遣いの勘十郎(父親)と簑助(桜丸)も、息がぴったりの名人芸を存分に楽しめた舞台だった。国立劇場の庭には、大宰府天満宮から寄贈された梅が満開でした。