映画は時代を映す鏡 

<ブログ18年目です>

「ヒッチコック」

ティーブン・レベロのノンフィクション「ヒッチコック&メイキング・オブ・サイコ」をもとに映画化。
この本は、ハリウッド映画史の貴重な資料でもあり、監督の思考や詳細な舞台裏レポートは、すこぶる面白い。

この本は、「第1章・耐え難い事実ーエド・ゲインの残虐行為」で始まる。
実在の殺人鬼エド・ゲインの姿や殺人現場の写真数枚も添えて。
映画での始まりも同様である。

そして本は、ロバート・ブロックの小説、映画化不可能の刻印、監督の災難、したたかな契約、書き直しにつぐ書き直しの脚本、「30日映画」という撮影、シャワーシーン、撮り直し、酷評、映画館への取り扱い説明書、公開後の衝撃、余波、と書き進む。
最後は監督次回作「鳥」のアイディアで終わるところは、映画と同じ。

初版本(90年白夜書房)の帯には、
「あのシャワーシーンは、いったい誰が演出したのだろうか?」
と衝撃的な文言が。

ヒッチコックが演出したのではないの?!という興味からこの本を購入したほど。
「めまい」、「北北西に〜」、「サイコ」とタイトル・デザインを担当したソール・バスは、
”このシークエンスの本当の作者は自分だ”
といって驚かせている事実を、多くの証言を交えて探る。
だが、映画ではソール・バスは登場していない。
「あのシャワーシーンは、ヒッチコックが演出したのだ」という立場で描かれている。

もうひとつ、妻アルマが脚本家との共同執筆中での浮気疑惑のレポートも本にはでてこない。
映画は監督の偏執的言動をきわだすための構成なのだろう。
アルマは監督を常に支えて、適切な助言や編集をこなす姿だけが、似合う。
それにしても、映画でのアルマ(ヘレン・ミレン)のイメージには違和感がある。
実際の姿、言動などは「ザ・ガール ヒッチコックに囚われた女」のほうが、近いはずだ。

ヒッチコックを演じたアンソニー・ホプキンスは、そっくりさんというより雰囲気演技といったところ。
女優ジャネット・リーを演じたスカーレット・ヨハンソンが、難しい役をスラリとこなしていた。
一番のそっくりさんは、アンソニー・パーキンス役のジェームズ・ダーシー

既に原作を読破してしまっていたので、映画では目新しいエピソードや展開はないが、殺人鬼エド・ゲインの幻影が常に監督につきまとうという場面が何回か挿入されて不気味な雰囲気を誘ったのが印象に残った。

映画としては、「ザ・ガール ヒッチコックに囚われた女」のほうがオススメ。