映画は時代を映す鏡 

<ブログ18年目です>

「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」

この映画の「予告編」では、サッチャー首相(メリル・ストリープ)が、数々の苦難を乗り越えたり、国の行く末を決定する重大な決断をしたりと「鉄の女」ぶりの姿ばかり見せられていたので、本編を観ると肩すかしをくらう。

映画は、引退し老いたサッチャーが食料品店に牛乳を買いに行くところから始まる。
よたよたと歩き、誰もこの老女がサッチャー元首相と気づかない。
自宅に帰ると夫のデニス(ジム・ブロードベント)に牛乳代金が高いと不満をもらすが、夫はいつの間にか画面から消える。
認知症の彼女は、亡き夫との幻影と語りながら半生をたどるという展開。
さすが「鉄の女」といわれた彼女も、いまや誰もが迎える老女。
思い出すのは、華やかな首相時代だが、いつも苦闘していた。
彼女を支えたのは、夫と双子の子供たち。夫の幻影はいつまでも消えない。
”掃除や皿洗いをするだけの女性にはなりたくない”と言っていた彼女もひとり紅茶カップを洗うラストに、ひとりの孤独な女性像をあぶりだす。

予告編で見せたように、サッチャー首相の苦難や決断を掘り下げて深く描けばドラマティックな映画となるのは請け合いなのだが、あえてそれを避けているようにもみえる。
「鉄の女」も「ひとりの女性」、誰でも「老いる」のだと。
 
それにしても、メリル・ストリープサッチャー首相への成り切りぶりは、すごいの一言。
彼女なくしてこの映画は成り立たないほどだ。

宣伝用チラシは、最初に出たのが下に掲載のチラシで、予告編と同じ「鉄の女」編。
その後に出たチラシが右上に掲載のもので、本編どおり「ひとりの女性」編。