東西冷戦下の1959年、私は中学3年生。
この年に製作された日米2本の映画が忘れられない。
米の水爆実験で被曝した第五福竜丸の船員たちの悲劇を描いた新藤兼人監督「第五福竜丸」。
もう1本は、第三次世界大戦が勃発し、核攻撃によって放射能汚染が広がり人類は全滅寸前という恐怖を描いたスタンリー・クレイマー監督「渚にて」。
多感な時期に観たこともあるが、当時核戦争の不安と恐怖感は大きなものであった。
トム・ハンクスとスティーヴン・スピルバーグ監督がタッグを組んだ映画「ブリッジ・オブ・スパイ」は、冷戦が緊迫する1957年から始まる。
ソ連のスパイであるアベル(マーク・ライランス)が逮捕され、弁護士ドノヴァン(ハンクス)が弁護を引き受けることになる。
周囲の非難のなか、ドノヴァンは、”どんな人間でも大切だ”と、国籍の違いに関係なく人間性そのものを信じて行動する。
実際に起きたソ連によるアメリカ偵察機撃墜事件、人質交換事件を丹念に再現。
冒頭のアベル逮捕から最後まで2時間半、スリルの連続で、息もつかせぬ緊迫した面白さは、さすがスピルバーグ監督の手腕。
だが、この映画はジョエル&イーサン・コーエンの脚本の力に負うところも大きい。
みどころである東西両関係者の腹の探り合いと交渉過程の妙、電車の場面の使い分けなど随所でサスペンスをもりたて、冷戦構造をも描ききっていた。感動のラストも。
先日発表された本年度アカデミー賞で、作品賞をはじめ脚本賞など6部門ノミネートされている。
脚本賞と助演男優賞にノミネートされたマーク・ライランスは本命なのではないか。