映画は時代を映す鏡 

<ブログ18年目です>

「愛、アムール」

パリの高級アパルトマンに住む80代の元ピアノ教師の夫婦。
妻が突然倒れ、老々介護する物語。

冷静に淡々と経過だけを描く作風のミヒャエル・ハネケ監督の最新作。
「隠された記憶」で見せた映像マジックは、今作品でも注目。

<以下ネタバレ注意>

介護の経過を丹念に追うカメラは、夫婦の部屋から、ほとんど出ない。だが、不審な物音に夫が廊下に出ると、階段は閉ざされ、強盗に襲われ恐怖の体験をする。
だが、これは夢だった。

妻は寝たきりのはずが、突然優雅にピアノを弾く場面がある。

CDチューナーを止めると、ピアノの音は消える。そうか、CDを聴きながら元気なときの妻を思い出している場面なのかとわかる。

再び介護が続く。突然元気に妻が食器を洗う姿が。治ったのか!と思いきや、これも思い出か夢という場面だった。

このようにカメラは、実際の介護の経過を丹念に追うだけではなく、夫の見た夢や思い出が挿入されていた。

ということは、妻に枕を・・という場面も、現実ではなく一瞬抱いた悪夢なのか、はたまた夢なのか?
確か映画の冒頭では、ベッドで横たえた亡き妻の姿は”安らかな表情”だった。

一瞬の悪夢だったのかどうかを観客に委ねることで、老々介護する夫の決断を抉り取った描写が、映画でしか語れない表現となって我々の胸に迫る。
最後は呆然とするしかない。

原題は「Amour」。
妻を演じるエマニュエル・リヴァの代表作は、「二十四時間の情事」。刺激的な邦題だが、その原題は「Hiroshima mon amour」。現代であれば、「広島、アムール」という邦題になりそう。
とすれば、この「愛、アムール」というこの邦題、やはりエマニュエル・リヴァを意識した名邦題といえそうだ。