映画は時代を映す鏡 

<ブログ18年目です>

菊五郎・菊之助の「雪暮夜入谷畦道」

雪の降る寒い夜、熱燗で蕎麦を食べる。
こんなシーンから始まる歌舞伎舞台
「雪暮夜入谷畦道」。

この外題がいいですね。「ゆきのゆうべいりやのあぜみち」と読む。
幕が開くと、吉原に近い入谷村の蕎麦屋。看板には「二八」2×8=16だから、「二八蕎麦」は一杯16文。

今月の歌舞伎座は、芸術祭参加ということで、華やかな舞台。
夜の部、私の好きな演目のひとつ。

河竹黙阿弥の代表作「天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)」は、
前半が河内山宗俊、今回の舞台である後半が片岡直次郎こと直侍が主人公。
直侍は江戸っ子で、今はお尋ね者。これを菊五郎が粋に演じる。

花道から登場するが、下駄の音がしない。

雪の畦道なので花道舞台である板の上を歩くような音は禁物。
下駄の足も白色にして、休憩時間には花道に音が消えるように白布を下敷きにしていたことが納得。西の桟敷席で観ているとこうした細かな芸や工夫にも驚く。

二八蕎麦屋にはいった直侍、寒さのあまり股火鉢をしたり、盃のゴミを箸で取ったりと、ここは細かい写実芸をみせ、実においしそうに、一気に蕎麦をすする。
天ぬき(天麩羅蕎麦の蕎麦抜きのこと)も出てきたりして、蕎麦好きにはたまらない風情。

場面は変わって、待ちわびた三千歳との逢瀬。
清元の名曲「忍逢春雪解」(この曲名もいい!「しのびあうはるのゆきどけ」と読む)が心地良い。
三千歳を菊之助がしっとりと演じていた。
幕末の男女は、粋でなまめかしい。

ダンディズムを堪能、芸術祭にふさわしい名舞台だった。