私が高校1年のときに観た映画「チャップリンの独裁者」は、トーキーを最後まで拒んでいたチャップリンが初めて本格トーキーに挑戦して、最後の演説場面に生かしていた。
映画は当然”しゃべるもの”という常識に、セリフがない映画に出会ったときの衝撃は大きかった。
働くだけの厳しい状況にセリフはいらない、ということだ。
これがテーマと合って、”映像詩”という言葉がぴったり。
林光の音楽も忘れられない。
この映画を観たとき、セリフがないとは知らないで観ていたから、いつしゃべるのかという緊張感があったが、子供を亡くして乙羽信子が、大切な水をぶちまけて大声で号泣する場面でショックと感動が襲ってきた。そしてこの映画は、なんと十数名のスタッフだけで民家に寝泊りしながら作ったという。
とにかく新藤監督の映画作りの執念はすさまじい。
この作品がモスクワ映画祭でグランプリ受賞して、日本では売れなかった作品が海外で買ってくれて、これまでの借金を返すことが出来たそうだ。
新藤兼人監督という
「作りたい映画だけを作ることのできる映像作家」
が日本にいたということも、驚きだった。
現代では、北野武と河瀬直美(「殯の森」)がそういう映像作家だろう。
ふたりともに日本より海外での評価のほうが高い。
冒頭の写真は、1962年キングレコードから発売された日本映画音楽のサウンドトラックレコード・ジャケット。当時上映された選りすぐりの8曲が収められている。
「裸の島」(写真左下)は、「映画音楽の傑作というだけでなく、独立した小交響詩。」
と荻昌弘が解説している。
<続く>