CS放送の日本映画専門チャンネルで、2月から「没後50年・監督溝口健二の世界」を特集していて、代表作のひとつである「近松物語」(54年)を観た。
この映画の予告編も同時に観たが、「3年連続ベニス国際映画祭で受賞した世界の名匠溝口健二監督が贈る問題作・・」とナレーションに、実際の溝口監督の撮影風景から始まるほど、当時の大映は溝口監督に力を注いでいた様子が窺える。
ベニス国際映画祭は、52年に黒澤明監督の「羅生門」が日本初のグランプリを獲得したのが大きな事件であったが、当時日本の新聞には見落としてしまいそうな程小さくしか掲載されなかったという伝説を残している。
翌53年には、溝口監督の「西鶴一代女」が受賞し、その後「雨月物語」「山椒大夫」で連続受賞する快挙。
油が乗り切っている時の作品が「近松物語」である。
「近松物語」は、近松門左衛門の文楽(人形浄瑠璃)での姦通物「大経師昔暦」が原作。おさんを香川京子、茂兵衛を長谷川一夫が見事に演じている。いま見直しても、緊張感ある構成(依田義賢脚本)、道行など美しいカメラ(宮川一夫撮影)、下座音楽で効果満点の早坂文雄の音楽、白黒映像にメリハリをつけた水谷浩の美術、という当時の日本映画界最高峰のスタッフの仕事に酔う。
不義密通をテーマにした文楽3大作品は、ほかに「槍の権三重帷子」、「堀川波の鼓」だが、いずれも映画化されている。篠田正浩監督「槍の権三」(86年)、今井正監督「夜の鼓」(58年)である。
江戸時代のみならず、終戦直後まで残っていた「姦通罪」。この日本独特の死を賭けた恋というテーマが作家を刺激するのだろう。
名著・ミシェル・メニル著の溝口監督論