湊かなえの原作は、
退任挨拶・電話といった会話や、手紙・遺書といった文書だけで構成され、違った人物の視点からの独白形式が新鮮なミステリー作品で、面白く読んだ。
原作どおりの映画なので、謎解きは承知していたが、
小説より面白かった。なにより、映画の進行が進むほどミステリー展開が深まり、登場人物の告白が真実とは限らないとわかってくる怖さ、これは脚本のうまさだろう。
緊張感は途切れなく持続する。松たか子の演技も見事。冒頭の告白という長いセリフを、不思議な感覚で伝えて
一気に観客を引き込んだ。映像がミステリアス。深い青色のトーンは、これまでの中島監督得意のポップ極彩色以上の圧倒感だし、
凸レンズミラーの構図、スローモーションの非現実感、シャボン玉・水しぶき・桜舞い散るシーンの美しさ。テーマからいえば、
大量の情報氾濫、パソコン・携帯で即時伝達という現代の状況を逆手にとって、告白という情報公開を通して、しかも情報操作企むという重いテーマが今日的だ。後味は悪いし、重く暗い。
だが、最後の「な〜んてね」というこの一言で観客は救われた感じとなる。
少年が窓から飛び降りそうになった時に発した言葉で、不幸や不安を、この一言で消してしまう魔法の言葉なのだ。