映画は時代を映す鏡 

<ブログ18年目です>

宮部みゆき「名もなき毒」

 ”連続無差別殺人事件。
   あらゆる場所に「毒」は潜む。”

宮部みゆきの3年ぶりという現代ミステリー小説「名もなき毒」(幻冬舎。06.8.25.刊)を読んだ。

「理由」や「模倣犯」に代表されるように、宮部みゆきの小説は、日常に潜む毒・悪意をするどく描き出す。
刑事でも探偵でもないサラリーマンの主人公が事件を解決するという無理を、無理と思わせない展開がうまい。

主人公は財閥の娘の婿で、家族と何不自由なく幸せな”普通”の生活を送っている。
毒をまきちらかすことのない主人公から見た現実世界はどう見えるか、というところが語り口のうまさ。
土壌汚染、ハウスダスト、無差別殺人その他さまざまな日常にひそむ毒、それと、ひとの心に食い込んでいく毒。
自分では”普通”と思っている主人公は、こう言われる。
 「”普通”というのは、今のこの世の中では、”生きにくく、他を生かしにくい”と同義語なんです。”何もない”という意味でもある。つまらなくて退屈で、空虚だということです。」

普通の基準が、変わったしまったという現実。
一時代前の基準で”普通”の人、いまや”貴重”な人である杉村三郎シリーズ(この作品が第2作目)は、まだ続くようなことを匂わせて終わっている。